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田中新兵衛(たなかしんべえ)

人斬り新兵衛と維新史に名を残した田中新兵衛(たなかしんべえ)は薩摩藩士とされるが、実際は島津家一門の島津織部家の家臣で、つまり新兵衛(しんべえ)は薩摩藩では私領持ちの家臣の陪臣身分(私領士)である。

田中新兵衛の出自には諸説あり、現地・薩摩(鹿児島)の伝承では薩摩前ノ浜の船頭とも薬種商ともされている。

「剣術に優れていた」とされているが流派は不明で、薩摩藩士・薬丸兼陳(やくまるけんちん)が示現流を修めた後、家伝の野太刀の技を元に編み出した剣術・薬丸自顕流(やくまるじげんりゅう)とする説もあるが、確証は無い。

新兵衛(しんべえ)が島津織部家の下士(下級武士)に取り立てられたには、薩摩鹿児島藩の豪商兼士分の森山新蔵の紹介に拠るとされ、森山新蔵が後に世間が「誠忠組」と名つけた薩摩改革派グループの一員として活動資金を担当した事から、新兵衛(しんべえ)の行動は森山新蔵の影響力の下に在った可能性もある。

この薩摩改革派グループは、奄美大島潜伏を命じられた西郷隆盛を盟主的存在とし、大久保利通らが主導して水戸藩浪士と共同して大老・井伊直弼を暗殺し、京都への出兵を行おうとする「突出」を計画した。

所が、藩主・島津茂久及びその父で後見役の島津久光から軽挙妄動を抑制されて「突出」の計画は頓挫し、結局井伊暗殺(桜田門外の変)には有村次左衛門のみが参加し、それを国元へ伝えた兄の有村雄助は切腹処分となる。

千八百六十二年(文久二年)、薩摩藩々父・島津久光は前藩主の兄・斉彬(なりあきら)の意思で在った「公武合体」の実現する為に藩兵を率いて上洛、身分の低い新兵衛(しんべえ)はこれに随行適わず単独で上洛をめざし、上京後は海江田信義や藤井良節の元に身を寄せ暗殺と言う過激な手段を取り始める。

新兵衛(しんべえ)の最初の標的は安政の大獄の実行者で九条家諸太夫の島田左近だった。

その島田左近を加茂河原まで追い詰めて惨殺、首を先斗町の川岸に斬奸状とともに晒した。

島田左近は九条家の威光を利用し京都では「今太閤」と言われるほどの実力者で在ったのでこの天誅暗殺(テロ)は評判となり、京都に於ける暗殺テロの先駆けと成る。

新兵衛(しんべえ)は島田暗殺事件後に土佐勤皇党の武市瑞山(半平太)と知り合い義兄弟の契りを交わし、以後瑞山(半平太)の影響下に在って土佐藩下士の岡田以蔵などと共に、本間精一郎、渡辺金三郎、大河原重蔵、森孫六、上田助之丞などを暗殺したと伝えられる。

しかし新兵衛(しんべえ)の天誅暗殺(テロ)のリスクは大きく、危ない橋渡りは永くは続かない。

千八百六十三年(文久三年)、勤皇派の姉小路公知が朔平門で襲撃され斬られる事件「朔平門外の変」が起こり、その現場には田中新兵衛の差料「薩摩鍛冶奥和泉守忠重」が残されていた。

新兵衛(しんべえ)は捕縛され、新兵衛が負っていた傷も生き残りの姉小路公知卿随員の証言と一致していた。

しかし取り調べ中に証拠の刀を手渡された新兵衛は、尋問の隙をついて自刃した為に真相は闇の中と成ってしまう。

現場に在った愛刀については盗難濡れ衣説もあるが、新兵衛(しんべえ)実行犯説が有力である。

岡田以蔵にしても田中新兵衛にしても身分は下士(下級武士)で、身体能力に優れるも思想に特に考えが在る訳でなく勤皇攘夷思想派の手先として暗殺の道具に利用されただけの生涯が涙を誘う。

また、一方は二千年来の血統体制の枠内で這い上がろうともがき、一方はその血統体制を打ち破ろうととした違いはあるが、京都見廻り組や新撰組として幕藩体制(公武合体)側に立ち勤皇攘夷派と対峙した近藤勇土方歳三達も境遇は似たような下士(下級武士)や見為(みなし)武士で、「認められたい一心」が彼等の哀しい生き様だったのかも知れない。

もっとも、この出世を餌に下の者に汚い事を押し付ける手法は現代に在っても似たような物で、公官庁の役人上下間や「秘書が勝手にやった」とうそぶく政治家など、まぁ人間やる事は余り進歩してはいない。

勿論、政治体制変革の狼煙(のろし)は常に下積みから燃え上がるものだが、正直、繰り広げられた倒幕運動・明治維新の動乱は、血統至上主義社会だった維新前の氏族社会に在って「コンプレックスを抱えた男達の物語」と言って過言ではない。

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by mmcjiyodan | 2010-01-06 01:06  

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