軍閥・財閥と二・二六事件
だが、やがて新しい制度の中で新たな権力が育って富が一部に集中し、その財力が日本を戦争への道へ進ませ、悲惨な歴史を刻み始めるのに五十年とは要さなかったのである。
「財閥と軍部の台頭」がそれで、つまり、近、現代における政治・経済の構造は、漏れ無く「四、五十年」で体制疲労してしまうのだ。
明治維新に拠って士族社会と言う特権枠が取り除かれ、庶民も学問次第で「為し得る地位の権利」を平等に保有するようになったが、それは永く続いた村社会(共生社会)の崩壊の序章であり、それと同時に新しい形の格差が始まった時代でも在る。
この希望に燃えた夢の時代は、はかなくも「軍閥と財閥」と言うモンスター(怪物)を生み出し、やがて「軍閥と財閥」の利の為に政治が動かされて国家国民が戦争へと駆りだされて行くのである。
先の大戦に至る日清戦争、日露戦争、朝鮮半島併合、満州国建国、など近隣国を巻き込む「不幸な歴史」も、その背景には「日本国内の不況」と言う事情があった。
千九百三十六年(昭和十一年)、民間人を含む皇道の派の二十歳代の隊付の青年将校のリーダー達十七名(大尉から少尉が中心)とその指揮下にある兵約千五百名に拠る「昭和維新・尊皇討奸」を目指す二・二六事件が勃発する。
斎藤内大臣、高橋蔵相、及び渡辺教育総監その他警備の警察官などを殺害したこの動乱も、皇道の派と統制派の権力争いの側面を持ちながらも、不況の中、陸軍士官学校出の青年将校が立ち上がった改革クーデターである。
維新の制度改革に拠って初めて氏族ではない将校が誕生するに至り、見捨てられた農村部の苦境が実感として判る様になったからである。
その背景には、財閥と軍の結び付きによる「富の集中」があり、暴力を肯定するものではないが、彼らの心情は察する所余りある。
一部の金持ちと、多くの貧乏人と言う構図が出来上がっていた。
二・二六事件当時、大蔵大臣・高橋是清(たかはしこれきよ)が主導した「リフレーション政策」はほぼ所期の目的を達していたが、これに伴い高率のインフレーションの発生が予見された。
この為、予見されたインフレーションを抑えるべく軍事予算の縮小を図った所、岡田内閣は軍部の恨みを買う。
千九百三十六年(昭和十一年)二・二六事件に於いて是清(これきよ)は赤坂の自宅二階で中橋基明中尉以下の青年将校らに襲撃され暗殺された。
是清(これきよ)の友人・予備役海軍大将・斎藤実内大臣もまた、この二・二六事件で坂井直中尉以下の襲撃部隊に暗殺された。
しかしこの帝都を揺るがす暗殺事件は、時の帝・昭和天皇の勘気を蒙りクーデターは鎮圧される。
その青年将校達の改革クーデターの試みが失敗すると、東条英機ら統制派の政治的発言力がますます強くなり、返って軍部の力が強まってしまい、経済問題までもが「武力解決が主流」になってしまった。
当時、農村部の小作農家の娘達の多くは、都会の娼婦館に身売りして行かざるを得ない程、経済的に追い詰められていた。
「野麦峠」などの作品で知られる劣悪な労働条件下の奉公も、農家に米の収穫以外に現金収入を得る手段が無かったからである。
その環境下で凶作に合うと、農村部はひとたまりも無い。
そこで、軍閥と財閥が狙ったのが満州であり、中国である。
つまり、次の四、五十年の原資を、闇雲(やみくも)に「外地に求めた」のだ。
そして、その無理は通らなかった。
他国の侵略は、国内の様には簡単ではない。
他国・異民族ともなると、民族意識が強く、侵略されても容易に屈服はしない。
従って、朝鮮半島進攻軍は泥沼に陥る事になる。
豊臣秀吉政権(朝鮮征伐/文禄・慶長の役)の無謀な外地獲得行為の教訓は忘れられていた。
長期的に見ると、富が一部に集中するやり方は資金の回転を鈍らせ、内需は慢性不況に陥る事になる。
一番単純な話し、痩せた土地からは思うような収穫は得られない。
国民を富ませなければ国税は得られない。
一部を富ませるやり方は、やがてその一部に国の方向まで握られ、彼らの利益のみに国家の方針が進む事になる。
経済運営とは、一歩間違うと国の進むべき方向を狂わしたり、国を滅したりする魔物なのだ。
つまり、国民を豊かにする事こそ国家の暴走を止める唯一の手段である。
関連小論・【張作霖爆殺事件・柳条湖事件の陰謀】を参照下さい。
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