武市瑞山(たけちずいざん/半平太)
白札郷士の身分は上士に準ずる扱いで、武市家は元々土地の豪農から五代前の半右衛門が郷士に取り立てられ、凡そ九十五年間の歳月を費やして白札に昇格した家である。
土佐勤皇党の武市瑞山(たけちずいざん/半平太)は、上昇志向の上に剣の腕も優れた野心家で周囲の評価も高い反面、そう言う論理的人物に在り勝ちな非情の部分も併せ持っていた。
その武市瑞山(たけちずいざん/半平太)の道場は結構に繁盛し、門人が百二十名に達する程の人気道場になり、瑞山(半平太)は名声が認められて土佐藩庁より出張教授を命じられ、田野の安芸奉行所・田野学館や赤岡の香美郡奉行所などに出向いて田野学館で後に門下生となる中岡慎太郎と出会っている。
武市道場の門下生からは、岡田以蔵など後に名を残す者も排出する。
千八百五十六年(安政三年)、瑞山(半平太)は土佐藩庁に江戸での剣術修業を願い出て藩臨時御用の名目を得、岡田以蔵や五十嵐文吉、多田三五郎、阿部多司馬、多田哲馬の五人を同行させ江戸へ出る。
江戸に出た瑞山(半平太)は、身を寄せる先の鍛冶屋橋土佐藩邸から程近い京橋蜊河岸の鏡心明智流・桃井塾士学館に入門し藩邸から通い始めるが藩の許可を得て内弟子として桃井春蔵の下に寄宿するようになる。
桃井春蔵は瑞山(半平太)の剣技や統率力を高く評価して、伊達家や細川家などの諸藩の藩邸で試合が行われる際には同行させ士学館の塾頭に抜擢する。
この頃瑞山(半平太)は、江戸で尊皇攘夷派の長州藩士・高杉晋作、桂小五郎(木戸孝允)、久坂玄瑞らと交流し尊皇攘夷に傾倒して行く。
千八百六十一年(文久元年)、武市瑞山(たけちずいざん/半平太)は一藩勤皇を掲げて坂本龍馬、吉村寅太郎、中岡慎太郎らの同士を集めて江戸にて土佐勤皇党を結成する。
坂本龍馬とは遠縁にあたり、その関係だが、瑞山(半平太)が城下新町田淵の郷士・島村源次郎の長女・富子と結婚し、その島村家は坂本家や龍馬の父・坂本八平の実家・山本家と縁があり、富子の父・源次郎の妹・佐尾子は白札・山本家の八平の兄・新四郎の子・代七と結婚して山本家に嫁いでいる。
翌千八百六十二年(文久二年)に藩主・山内豊範(容堂)への進言を退けた土佐藩参政で開国・公武合体派の吉田東洋(よしだとうよう)の暗殺を那須信吾、大石団蔵、安岡嘉助らに指令、暗殺を実行させている。
吉田東洋の暗殺に成功した瑞山(半平太)は、東洋派重臣を藩の要職から追放し、新たに要職に就いた守旧派を傀儡として藩政の実権を掌握すると伴に藩主・山内豊範を奉じて京に進出する。
上洛した瑞山(半平太)は、土佐藩の他藩応接役として他藩の志士達と関わる一方で、朝廷工作に奔走して幕府に対して攘夷実行を命じる勅使を江戸に派遣させようとし、その動きが功を奏し朝廷が攘夷の朝議を決した際、これをくつがえそうと入京を画策した一橋慶喜を一時妨害する裏工作に成功するなど神出鬼没の働きをしている。
京での瑞山(半平太)は配下の岡田以蔵、薩摩藩の田中新兵衛らを使って「天誅、斬奸」と称して刺客を放ち、数々の佐幕派暗殺に関与し政敵を暗殺し、その年の秋には朝廷から幕府に対して攘夷催促する勅使の江戸東下に柳川左門と言う変名で副使姉小路公知の雑掌となり江戸に随行している。
瑞山(半平太)の土佐勤王党は、結党二年後の千八百六十三年(文久三年)には百九十二名が連判に参加、瑞山(半平太)は白札から上士格留守居組に出世、更には京都留守居加役となるが、その年の八月十八日会津藩と薩摩藩が結託したクーデター(八月十八日の政変)が発生し事態は一転する。
長州藩が中央政界で失脚し勤王派は急速に衰退し代わって公武合体派が主導権を握る不運が瑞山(半平太)に訪れるのである。
瑞山(半平太)は、その政変の四ヶ月前に薩長和解調停案の決裁を山内容堂に仰ぐために帰国していたが、捕縛されていた側近の平井収二郎、間崎哲馬、弘瀬健太が青蓮院宮の令旨を盾に藩政改革を断行しようとした事を理由に切腹を命じられ、他の勤皇党同志も次々と捕縛される。
自身もこの政変が土佐藩に影響し、老公と呼ばれた公武合体派の前藩主・山内容堂の影響力が再び増し、瑞山(半平太)は、政変後に逮捕投獄されるがまだ捕まっていない同志を思い、吉田東洋暗殺を一年半の獄中闘争で否定し続けた。
東洋暗殺を否定し続けた瑞山(半平太)だったが、後に捕縛された岡田以蔵の自白により土佐藩での罪状は決定し、千八百六十五年(慶応元年)「君主に対する不敬行為」という罪目で老公・容堂に家禄は召し上げの上切腹を命ぜられ、誰も為し得なかった三文字の切腹を成し遂げて武士の気概を見せ果てて居る。
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