江戸町方人別帳(えどまちかたにんべつちょう)
人口は絶えず拡大を続けて江戸を東日本に於ける大消費地とし、日本各地の農村と結ばれた大市場、経済的先進地方である上方(近畿地方)と関東地方を結ぶ中継市場として、経済的な重要性も増した。
人別帳の正式名称は人別改帳(にんべつあらためちょう)で、基本的に流動性のあるものだから常に変動実態の把握調査をしていた。
江戸の人口は、参勤交代に伴う地方からの単身赴任者や地方から流入する出稼ぎの者など流動的な部分が非常に多く、幕府もその人別(戸籍)管理には苦慮していた。
中でも町方の出居人・出稼人に関しては江戸に居付いて江戸の下層町人となる者が多く、さながら現代の米国に入国して下層階級を形成している移民や密入国者のような状態だった。
またその反面として現在の農業政策問題にも通じる所であるが、諸国人別(在方)が減少して村高と村の機能を維持する事が難しく成っていた。
つまり都市人口集中問題が、当時から政策課題になっていた。
その為に幕府は、千七百八十年(安永年間)頃に村役人へ村高と村の機能を維持するのに必要な人数を見積もり、余剰人員のみを出稼人として出すように命じている。
町方人別制度の改定が行われ、江戸に入り込んで妻子なく裏店を借り受けている者の内には、裏店を一期住まい(いちごすまい、終の棲家の意)とする者もあるが、これらの者は早々に帰国を命じるとし、ただし商売をして妻子のある者は、この改定の特例として格別の御仁恵をもって帰国を命じないものとする。
今後江戸に人別(戸籍)を持たない者が新たに在方から「江戸の人別に入る事」は禁止し、特に必要があって在方から江戸に入る場合は出稼ぎの期限を定め、支配の代官・領主地頭に願い出て、これら役人の印と村役人の連印の免許状を持参して出府(江戸へ出る)すると決められていた。
江戸に住居する者(人別を持つ者)は、この免許状によって同居させたり店(たな)を貸したり(借家人に)する場合は、免許状は家主が預かり、当人を人別帳に加えずに出稼ぎの者・仮人別帳に記入して置き、期限が来て帰国する際に免許状を返してやる。
また、武家方中間、町方下男、武家町方下女等奉公出稼人も同様に出稼ぎの期限を定め、支配の代官・領主地頭に願い出てこれら役人の印と村役人の連印の免許状を持って出府する。
江戸に住居する者(人別を持つ者)は、この連印免許状に拠って請人となり奉公をさせ、免許状は奉公先主人が預かり奉公人が暇を取る際に返すものとしていた。
また、江戸市中の内に於ける転居の場合は、出元支配の町名主から転出先支配の町名主へ転居通知を送達する「人別送りをする事」とした。
いずれにしても人別政策は厳重で、名主が保管していた人別帳は毎年四月に両町奉行所に人別帳を一通ずつ差し出し、町名主には控えを預けて置く。
人別改めは家主が、店子その家族、召仕、同居の者まで生国・菩提所・年齢など詳しく記して名主へ差し出し、名主は一人ずつ呼び出して判元を見届けて人別帳に調印させた上で、両町奉行所に差し出す分を町年寄へ提出する。
名主が保管する人別帳には改め後の存亡、結婚による増減はもちろん、同居人の出入まで委細に記入しておき、判形を改める者があればその旨断り書きをして調印させ、不時に奉行所から尋ねられた際に差し支えのないようにしていた。
四月に名主が奉行所へ人別帳を差し出す際には、奉行所で前年の人別帳と付き合わせて取り調べるものとし、毎年九月には四月に差し出した人別帳を名主に下げ渡すから、四月以降の増減を断り書きして書き出す事としている。
またこの町方人別帳(まちかたにんべつちょう)搭載者に於いて罪を犯した場合、その刑の裁きに罪囚の庶民たる身分を剥奪し庶民の人別改帳より除籍した上で非人頭(えた頭)に交付され非人に身分を落とされ非人別改帳(ひにんべつあらためちょう)に登載し、男性なら非人手下(ひにんてか)、女性には奴刑(しゃつけい)と言う事実上女郎身分に落とされる刑が存在した。
尚、町方の者が出家したり頭を剃って道心者や願人坊主になったり、吉田(神道)・白川(伯家神道/はっけしんとう)・陰陽師・神事舞太夫などの門下となるなど身分不相応の許状を得た際は、町役人(町年寄・名主・家守)から町奉行所へ申し出、奉行所は吟味した上で許可するものとする。
この内、吉田神道は亀ト占術(きぼくうらない)を司どるト部(うらべ)氏の後裔・吉田兼倶(よしだかねとも)が室町末期に唱えたもので、白川・伯家神道(はっけしんとう)は朝廷の祭式儀礼を継承してきた神祇伯白川家(じんぎはくしらかわけ)の事である。
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