阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)
阿倍氏は、孝元大王(こうげんおおきみ/第八代天皇)の皇子・大彦命(おおびこのみこと)を祖先とする皇別氏族とされるが確たる証拠は無く、歴史上はっきりとした段階で活躍するのは宣化大王(せんかおおきみ/第二十八代天皇)の大夫(だいふ)であった阿倍大麻呂(おまろ)が初見で、阿倍火麻呂(あべのほまろ)とする説もある。
つまり阿倍氏として始めて中央に登場する阿倍大麻呂(あべのおまろ)なる人物が、この物語で述べる阿倍氏蝦夷王説の「安倍=アピエ(火)説」と別説名・火麻呂(ほまろ)の名の一致点は偶然だろうか?
そして阿倍氏は、まだ大和朝廷(ヤマト王権)の統治が落ち着かない東国支配の強化に朝命を持って活躍している。
阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)は、若くして学才を謳われ七百十七年(霊亀二年)多治比県守(たじひのあがたもり)が率いる第九次遣唐使に同行して唐の都・長安に留学する。
同期遣唐使一行には留学生・下道真備(吉備真備/きびのまきび)や留学僧・玄昉(げんぼう)がいた。
仲麻呂(なかまろ)は唐の太学で学び、唐現地の学生でも中々合格しない科挙に合格し唐の皇帝・玄宗に仕え、七百二十五年の洛陽司経局校書として任官したのを皮切りに、七百二十八年に左拾遺、七百三十一年に左補闕と官位を重ねている。
仲麻呂(なかまろ)は唐の朝廷に於いて主に文学畑の役職を務めた事から、彼に関する唐詩人の作品が現存し、李白・王維・儲光羲ら数多くの唐詩人と親交していたと推測されている。
七百三十三年(天平五年)に平群広成(へぐりのひろなり/多治比県守の弟)が率いる第十次遣唐使が来唐し、下道真備(吉備真備/きびのまきび)や留学僧・玄昉(げんぼう)は翌年帰国の途に着くが、仲麻呂(なかまろ)はさらに唐での官途を追求する為に帰国しなかった。
帰国の途に就いた第十次遣唐使の帰路一行はかろうじて第一船のみが種子島に漂着、真備と玄昉は幸運にも第一船に乗船していて帰国を果たしている。
残りの三艘は難破し、内、副使・中臣名代(なかとみのなしろ)が乗船していた第二船は福建方面に漂着し、一行は長安に戻った為、名代(なしろ)一行を何とか帰国の航行に就かせる。
所が、その帰国船が今度は崑崙国(チャンパ王国)に漂着して捕らえられ、唐帝国に脱出して来た遣唐使判官・平群広成一行四人が長安に戻って来た。
遣唐使判官・平群広成(へぐりのひろなり)らは、唐帝国の高官に成っていた仲麻呂(なかまろ)の奔走が実り、漸く渤海経由で日本に帰国する事ができた。
七百三十四年に儀王友、七百五十二年に衛尉少卿に仲麻呂が昇進した年、藤原清河(ふじわらのきよかわ)率いる第十二次遣唐使一行が来唐し、既に在唐三十五年を経過していた仲麻呂は帰国を図り、翌七百五十三年の第十二次遣唐使帰路に秘書監・衛尉卿を授けられた上で乗り込む。
所が、仲麻呂や清河(きよかわ)の乗船した第一船は暴風雨に遭って南方へ流され、船は以前に平群広成らが流されたのとほぼ同じ漂流ルートを辿どり、幸いにも唐の領内である安南の驩州(現・ベトナム中部ヴィン)に漂着した。
結局、仲麻呂一行は二年後の七百五十五年に長安に帰着するが、清河(きよかわ)の身を案じた日本の朝廷から渤海経由で迎えが到来するものの、唐朝は安禄山の乱を理由に行路が危険であるとして清河らの帰国を認めなかった。
仲麻呂は帰国を断念して唐で再び官途に就き、七百六十年には左散騎常侍(従三品)から鎮南都護・安南節度使(正三品)として再びベトナムに赴き総督を務めた。
仲麻呂(なかまろ)は六年間もハノイの安南都護府に在任し、帰任するに当たって安南節度使を授けられ、日本への帰国は叶えられる事なく最後は潞州大都督(従二品)を贈られ、七百七十年に七十三歳の生涯を閉じいる。
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