国益(こくえき)と神風伝説(かみかぜでんせつ)
当時の国益(こくえき)と言う用語於ける「国の概念」は、三百諸侯と表現した諸藩領国の事で、その領国ごとの産品生産の向上なり経済自立化などの概念として使用された。
この用語が、幕末から明治維新以後に於いては対外国政策などの思想概念にも使用されるように成った。
まぁ人間の考える事など、戦前も現在も余り変わりは無い。
現在の防衛省幹部も官僚だが戦前の軍部幹部も官僚で、つまり現在の官僚が省益を守り育てると同様の風潮があり、それが局地戦から大戦に拡大する土壌だった。
結局の所、「国益、国益」と言いながら、軍幹部が財閥と組んで己達の利権拡大の為に軍事行動を拡大した側面は否めない。
政治家や官僚は簡単に「国益」と言うけれど、「国益は民益とは正反対に位置するもの」と言う矛盾が在る。
太平洋戦争も各地で連合軍に圧されて敗色が濃くなる千九百四十四年(昭和十九年十二月七日)、紀伊半島熊野灘沖に地殻変動が起こって「昭和東南海地震」が発生する。
現在騒がれている南海トラフ型の大地震だったが、戦時中の報道統制下の為、東海地域の軍需工場が壊滅的な打撃を受けた事を隠す為に報道は規制され、詳細な報道がなされなかった。
当時米国を中心とした連合軍と交戦中の大本営では、「地震情報は敵を利する」として報道を統制し、公な救助活動もしなかった。
つまり国家と言うものは民益よりも国益を優先し、その守るべき国益は、実は特定の権力階層だけのものだったりする。
「国益」は、国家の為の国民か国民の為の国家なのかを巧みに混同させた言葉である。
この本質は、為政者(政治家)と国民の立場の違いである。
「国益」の統治的効用は、元々人間が群れ社会の動物で帰属意識が高い事を利用した為政者が、自信満々で言う言葉の美名なので国民は騙され易い。
日本史には「現実の歴史」と「文化としての歴史」と言う虚と実の二つの歴史が混在している。
歴史の難しい所は、例え統治の都合で捏造されたものでも、永く伝承されると「文化の歴史」として存在する様になる事である。
つまり「史実の歴史」とは別に「文化としての歴史」は、信仰や伝説を通じて時の経過と伴に育ち、後世では確実に文化として存在し、「全く無い事」とは否定出来ないのだ。
そして意図的に創り上げたのは、蒙古襲来(元寇/げんこう)時の「神頼み(暴風)」を都合良い解釈に仕立てて採った「神風伝説(かみかぜでんせつ)」だった。
只、この「史実の歴史」と「文化の歴史」は、違いを認識しながら扱って行かねば成らない事は言うまでも無い。
確かに鎌倉期の千二百七十四年(文永十一年)元(げん)・高麗国(コリョグオ)の連合軍が対馬・壱岐を襲った後、博多湾の沿岸に上陸(じょうりく)した。
これを「文永(ぶんえい)の役(えき)」と呼ぶ蒙古襲来(元寇/げんこう)が在ったのだが、到着した時には海峡の海はもう暴風に荒れ狂っていた為に大被害を出して元軍は撤退した。
七年後の千二百八十一年(弘安四年)に、「弘安(こうあん)の役(えき)」と呼ぶ二度目の蒙古襲来(元寇/げんこう)が在り、幸運な事にこの時も元軍(げんぐん)は暴風に会い大被害を出して撤退している。
この時の故事に倣(なら)って、「神風」なる伝説神話を編み出し民衆に広めた。
しかし「神風」など、日本本土が焦土と化しても吹きはしなかった。
鎌倉期二度の蒙古襲来(元寇/げんこう)時は偶然の暴風に重なって救われたが、それはあくまでも気象現象で、そう都合良く近代戦に「神頼み」など通用する訳がないのだ。
尚、戦前にこの神風伝説(かみかぜでんせつ)にあやかって大日本帝国海軍が量産した駆逐艦の艦級に、多数の神風型駆逐艦(かみかぜかたくちくかん)がある。
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