関東軍(かんとうぐん)〔一〕
その租借地・関東州(遼東半島)と南満州鉄道(満鉄)の付属地の守備をしていた関東都督府陸軍部を前身として大日本帝国陸軍の総軍の一つ関東軍(かんとうぐん)は誕生する。
当初の編制は独立守備隊六個大隊を隷属し、また日本内地から二年交代で派遣される駐剳(ちゅうさつ)一個師団(隷下でなくあくまで指揮下)のみの小規模な軍で在った。
千九百十九年(大正八年)に関東都督府が関東庁に改組されると同時に、台湾軍・朝鮮軍・支那駐屯軍などと同じ軍たる関東軍として独立した。
関東軍(かんとうぐん)が帝国陸軍の総軍の一つに昇格したのは千九百四十二年(昭和十七年)十月一日で、それ以前は軍の一つだった。
司令部は当初旅順に置かれたが、満州事変後は満州国の首都である新京(現・吉林省長春)に移転する。
「関東軍」の名称は万里の長城の東端とされた「山海関の東」を意味し、元々の警備地の関東州に由来する。
千九百二十八年には、北伐による余波が満州に及ぶ事を恐れた関東軍高級参謀・河本大作陸軍歩兵大佐らが張作霖爆殺事件を起こす。
しかし、張作霖の跡を継いだ息子・張学良は、国民政府への帰属を表明し工作は裏目となった。
張作霖爆殺事件や満州事変を関東軍が独断で実行した事は、千九百二十年代からの国家外交安全保障戦略を、現地の佐官級参謀陣が自らの判断で武力転換させた事を意味する。
そして、その後の太平洋戦争(大東亜戦争)に至る日本の政治外交過程を大きく左右する契機となった。
これら関東軍・佐官級参謀陣の一連の行動は参謀本部・陸軍省と言った当時の陸軍中央(省部)の国防政策からも逸脱していた。
明確な軍規違反であり、大元帥・昭和天皇の許可なしに越境で軍事行動するのは死刑にされるほどの重罪で在ったが、処罰される何処か首謀者は出世した。
千九百三十一年、石原莞爾作戦課長と板垣征四郎高級参謀らは柳条湖事件を起こして張学良の勢力を満州から駆逐し、翌千九百三十二年、満州国を建国する。
犬養毅首相は、当初満州国承認を渋るが海軍青年士官らによる五・一五事件の凶弾に倒れ、次の斎藤実内閣は日満議定書を締結し満州国を承認する。
その後、関東軍司令官は駐満大使を兼任すると伴に、関東軍は満州国軍と共に満州国防衛の任に当たる。
一連の満蒙国境紛争に当たっては多数の犠牲を払いながら、満州国の主張する国境線を守備する。
関東軍司令部は、千九百三十四年に満州国の首都・新京市(日本の敗戦後、旧名の長春に戻る)に移った。
一方で、千九百十七年のロシア革命とその後の混乱により弱体化していたソビエト連邦は、千九百三十年代中盤頃までに第一次及び第二次五ヵ年計画を経て急速にその国力を回復させていた。
当初日本側は、ソ連軍の実力を過小評価していたが、ソ連は日本を脅威とみなして着実に赤軍の極東軍管区の増強を続けていた。
千九百三十八年の張鼓峰事件で朝鮮軍隷下の第十九師団が初めてソ連軍と交戦し、その実力は侮りがたい事を知る。
更に千九百三十九年のノモンハン事件では、関東軍自身が交戦するが大きな損害を被り日本陸軍内では北進論が弱まる契機となった。
なお戦後の或る時期まで張鼓峰事件・ノモンハン事件は「日本陸軍の一方的敗北で在った」と考えられていた。
しかしソ連崩壊により明らかになった文書に拠ると、両戦闘に於けるソ連側の損害が実は日本側を上回っていた事実が分かった。
これにより特にノモンハン事件に関しては現在再評価が進んでいるが、戦時の勝敗は損害の高だけではなく戦闘当事者の勝敗実感も影響されるものである。
その当事者の勝敗実感で、明らかに関東軍は大敗と感じていたのだ。
これらの武力衝突によりソ連軍の脅威が認識された事や第二次世界大戦の欧州戦線の推移などにより関東軍は漸次増強され、千九百三十六年には、関東軍の編制は四個師団及び独立守備隊五個大隊となっていた。
そして、翌千九百三十七年の日中戦争(支那事変)勃発後は、続々と中国本土に兵力を投入し、千九百四十一年には十四個師団にまで増強された。
加えて日本陸軍は同年勃発した独ソ戦に合わせて関東軍特種演習(関特演)と称した準戦時動員を行った結果、同年から一時的に関東軍は兵力七十四万人以上に達した。
「精強百万関東軍」「無敵関東軍」などと謳われたて居たのは、この時期である。
なお、同千九百四十一年四月には日本とソ連との間で日ソ中立条約が締結されている。
【関東軍(かんとうぐん)〔二〕】に続く。
関連小論・【張作霖爆殺事件・柳条湖事件の陰謀】を参照下さい。
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