勝海舟(かつかいしゅう)
ただし幕臣とは言え、勝家は小身無役の貧乏旗本である。
勝の信条は「物分りの良い事」で、この信条は情勢分析を正確なものにし、幕臣と言う立場に拘らない判断をする事になる。
幕府から安房守に任ぜられた事から勝安房(かつあわ)と呼ばれた為、安房(あほう)と同じ音の安芳と、維新後改名して勝安芳(やすよし)。
海舟は号である。
素姓から言えば、海舟(かいしゅう)の出自はかなり庶民的である。
盲人であった越後国の住人の曽祖父・銀一は江戸へ出て高利貸し(盲人に許されていた)で成功する。
その曽祖父・銀一の巨万の富を使って御家人(ごけにん)株を入手して男谷家を興した父・男谷平蔵の三男・小吉が、小普請組と言う小身無役の旗本・勝家に養子に出され、勝麟太郎(海舟)の父・勝小吉が誕生した。
西郷隆盛との交渉に拠る「江戸城無血開城」は、余りにも有名な功績である。
勝海舟(かつかいしゅう)の本名は勝義邦 (かつよしくに)、幼名は麟太郎(りんたろう)と言う。
幼少時の麟太郎(りんたろう)は、十一代将軍・徳川家斉の孫・初之丞(後の一橋慶昌)の遊び相手として江戸城へ召され、勝麟太郎(りんたろう/海舟)に出世の道が開けたかに見えたが、慶昌が早世した為その望みは消えている。
この辺りに人の世の無常を悟って、結構「聡明な皮肉屋の勝海舟」と言う人柄が生まれたのかも知れない。
その後、勝麟太郎(りんたろう)は赤坂溜池の福岡藩屋敷内に住む永井青崖に弟子入りして蘭学を学び、蘭学者・佐久間象山の知遇も得ている。
勝海舟(かつかいしゅう)の出世の糸口は、ペリーが黒船船団を率いて来航し、「開国」を要求した事にある。
「開国」の問題は内政と違う深刻な外交問題で、老中首座・阿部正弘(あべまさひろ)は幕府の決断のみで鎖国を破る事に慎重になり、海防に関する意見書を広く募集した。
海防意見書を提出した勝海舟(かつかいしゅう)の意見書は阿部正弘(あべまさひろ)の目にとまり、幕府海防掛だった大久保忠寛(一翁)の知遇を得て念願の役入りを果たした。
幕府が洋式海軍技術・操練術移入の目的でオランダ人を招き長崎に「海軍伝習所(海軍学校)」を開いた為、勝海舟(かつかいしゅう)はその「海軍伝習所(海軍学校)」に入門した。
蘭語が良く出来た為に教監も兼ね、オランダ人教官と伝習生の連絡役も果たす内に海軍伝習所での指導者的地位を確立して、足掛け五年間を長崎で過ごし、その間に坂本龍馬も弟子にしている。
勝海舟(かつかいしゅう)がこの間に学んだ洋式海軍技術・操練術は、幕府随一のものと成って居た。
万延元年・遣米使節(まんえんがんねん・けんべいしせつ)の派遣が決まると、遣米使節の正使及び副使に、共に外国奉行及び神奈川奉行を兼帯していた新見正興(しんみまさおき)と村垣範正(むらがきのりまさ)が任命された。
その遣米使節に軍艦奉行・水野忠徳(みずのただのり)の建議で、正使一行とは別に護衛を名目に咸臨丸を派遣する事にする。
その随行艦・咸臨丸の司令官には、軍艦奉行並で在った木村喜毅(きむらよしたけ/芥舟・かいしゅう)を軍艦奉行に昇進させ命じた。
咸臨丸が、太平洋を渡り無事サンフランシスコに到達し後無事帰国したのは、水夫五十名の内三十五人が瀬戸内海塩飽島に本拠地を置く、操船技術に卓越した塩飽水軍(しわくすいぐん)の末裔だった。
軍艦奉行・木村喜毅は、咸臨丸乗組士官の多くを軍艦操練所教授の勝海舟(かつかいしゅう)をはじめとする海軍伝習所出身者で固め、海舟(かいしゅう)に海外渡航のチャンスがめぐって来た。
この遣米使節(けんべいしせつ)は、サンフランシスコ滞在中に元号が「万延」に変わり、「万延元年・遣米使節(まんえんがんねん・けんべいしせつ)」と称される。
鳥羽・伏見の戦い(とば・ふしみのたたかい)を投げ出して、伊勢から水路逃げ帰った十五代将軍・徳川慶喜(とくがわよしのぶ)の江戸帰還後、江戸城に重臣が集まり、一月十二日から官軍の東征にどう対処するかの評定が開かれた。
評定に於いて、勘定奉行・小栗忠順(おぐりただまさ)は海軍副総裁・榎本武揚(えのもとたけあき)、歩兵奉行・大鳥圭介(おおとりけいすけ)、奉行職歴任後謹慎中・水野忠徳(みずのただのり)等と徹底抗戦を主張する。
しかし十五代将軍・徳川慶喜(とくがわよしのぶ)は、この徹底抗戦策を採用せず陸軍総裁・勝海舟(かつかいしゅう)らの恭順論を受け入れ、勝(かつ)に後事を託して上野寛永寺大慈院に謹慎する。
【江戸城無血開城(えどじょうむけつかいじょう)】に続く。
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by mmcjiyodan | 2008-04-29 19:04